2018/08/25

陽明学の理念「知行合一」の意味を現代風に説明します。




きなこもちさんによる写真ACからの写真 



何事も、心に抱いているだけで行動に移さなければ、事態は変化していきません。


知っていながら行わないのは、それは知らないことと同じである。


この考えは、中国で生まれた思想・陽明学における知行合一(ちこうごういつ)の理念であり、幕末の日本で武士道や仏教思想と結びつき、数々の志士たちに影響を与えました。

黒人解放運動の指導者・キング牧師も次のような言葉を残しています。


Take the first step in faith. You don’t have to see the whole staircase, just take the first step.


疑わずに最初の一歩を踏み出しなさい。階段全体を見る必要はない。ただ、最初の一段をのぼりなさい。


このように、何事もはじめの一歩を踏み出すことから始まりますが、人は意中の相手に好意を伝えるといった身近な行動ですら躊躇してしまいがちです。

では、なぜ人は行動に移せないのでしょうか?

その理由を、意中の人に告白するケースから考えてみます。


一つ目は、相手に断られたとき、それは自分が否定されたことを意味し、心に傷を負う可能性があり、そのことを恐れているのがあります。


二つ目は、相手に断られたとき、それは失敗を意味し、周囲から後ろ指をさされる可能性があり、そのことを恐れているのがあります。


三つ目は、相手に断られたとき、現状が良好な関係であれば、それが崩れてしまう可能性があり、そのことを恐れているのがあります。


四つ目は、どうせ失敗するだろう、と考えているのがあります。


ここでは、一つ目と二つ目の理由に焦点を絞り、解決策を探っていきます。

自分が否定されることや、他人からの指摘を恐れるのは、つまるところプライドが障害となっています。

よって、多くの識者は、ここでプライドを捨てろと言います。

確かに、失敗とは所詮一時的なもので、また人は他人のことなどそれほど気にしてはおらず、当人が抱いているプライドなどは、実に取るに足らないものです。

自意識過剰という言葉があるように、自尊心という名のプライドは、多くの場合行動の妨げとなり、捨てられるものなら捨てるべきです。

ただし、どんなチンケなプライドでも、それがなくては力強く歩んでいくことができないのも事実です。

特に男性にとっては、そのプライドが邪魔をし、最悪自死を招いてしまうケースが多々あるものの、やはりプライドとは大事なものです。

そのため、確固たるプライドを持ちながらも、捨てるべきときはあっさり捨てられるのが理想ですが、なかなかそう上手はいきません。

では、プライドを捨てずに行動へ移す方策を挙げていきます。


一つ目は、ちょっとやそっとで傷付かないプライドを身に付けることです。


様々な失敗体験を繰り返し、心の傷に対する耐性を身に付けておけば、結果としての失敗や他人からの指弾を恐れる気持ちは減少していき、行動へのためらいもなくなっていくでしょう。

ただし、失敗ばかりして、回復できないほどプライドが傷付いてしまう可能性もあるので、程よい成功体験も必要になりますが、失敗体験を繰り返して心を鍛え、強靭なプライドを身に付けていくことで、告白への恐れは弱まっていくことでしょう。


二つ目は、傷付く恐れを上回るだけの感情を持つことです。


相手への熱意が強ければ、断られる恐れを抱きながらも告白することができます。

また、交際できれば他人に見栄を張れるという感情が勝ったり、逆に、交際できなければこの世の終わりと思うくらいの大きな恐怖でも、告白する理由になります。


三つ目は、自分は特別で選ばれた人間だと勘違いすることです。


根拠のない自信や全能感とは、大きな成功体験や、社会的地位の高い親や偉人との同一化や、占いのようなスピリチュアルや宗教などから得られますが、それが獲得できれば行動的になれます。

たとえ振られても、貴方は損をしたと上から目線になれ、傷付くこともないため、告白することができるでしょう。


四つ目は、相手をおとしめて、自分と同じ土俵に引きずり下ろすです。


よくある切実な問いで、就職活動中の面接や社会的地位の高い人と会う場合、どうすれば緊張せずに乗り越えられるのかというものがあります。

ここでの一般的な回答として、汚い話になりますが、相手が大便している姿を想像しろというものがあります。

どんなに地位や身分が高くとも、所詮は同じ人間であり、それを理解するためには、もってこいの手段と言えるでしょう。

恋愛も同じで、美化している相手が自分と同じであり、何ら変わらない汚いこともしていると分かれば、臆せずに告白できるでしょう。

ただ恋は盲目であり、この方法は意中の相手には効かないかもしれません。


五つ目は、ポジティブシンキングを身に付けることです。


告白が必ず成功するというポジティブシンキングは、自分に暗示をかけたり、イメージトレーニングをすることで獲得できます。

また、失敗を次のステップと肯定的に捉えるポジティブシンキングもあります。

これは、大きな失敗から立ち直った経験や、苛酷な失敗を繰り返した先での成功体験により、獲得できるでしょう。

他にも、そもそも失敗を失敗と受け取らないポジティブシンキングもあります。

エジソンのように、失敗が起きても、それは上手くいかない方法を見付けた成功である、と解釈できれば告白を躊躇うことはないでしょう。


六つ目は、破滅的な人間になることです。


附属池田小事件で児童八人を刺殺した宅間守は、母親から「お前なんか産まれてこなければよかった」と全否定され、自分に価値を感じることができませんでした。

そのためにプライドを育めず、自分はどうなってもいいとの理由から、破滅を恐れない行動派となりました。

このケースは例外ですが、当って砕けろ的な精神を獲得できれば、告白ができるでしょう。


七つ目は、薬物に頼ることです。


もちろんこれは論外であり、身も心も壊したら意味がありませんのでやめるべきですが、高揚感が得られる合法的な薬などがあれば、効いている間は告白できるかもしれません。


八つ目は、マゾヒストになるです。


このケースは目的が違ってきますが、失敗を喜ぶような人間であれば、躊躇わずに告白できるでしょう。

以上、プライドを抱えながらも、行動に移すための方策を挙げてみました。

人が行動できない要因には、様々なものが複合的に絡み合い、単純ではないのかもしれませんが、プライドを守ろうとする気持ちが大きな足枷(あしかせ)となっていることは確かです。

失敗して恥をかきたくない、失敗して変な目で見られたくない、失敗して信用を失いたくない、といったプライドから派生する恐れや不安の存在が、行動の妨げとして大きな要因を占めていることは確かです。

それら恐れや不安などの負の感情は正常なものであり、決して否定すべきではありませんが、それらの根っこであるプライドが邪魔をし、行動に移せないのであれば何事も始まりません。

そして、このプライドを守るという根っこを辿っていくと、失敗して後ろ指をさされることで、仲間外れにされたくない、爪弾きにあいたくない、という想いが隠れていることも分かります。

ただし、誰のどんな人生にも、もしこの行動を選択したら、自分の立場が危うくなるかもしれない、自分に災難が降り掛かるかもしれない、という場面が必ずあるはずです。

そのとき、危険だからやめようと躊躇する自分と、この危険を乗り越えてみたい、この先の景色を見てみたいと考える自分がいるはずです。

本記事では、行動に移すための解決策を挙げてきましたが、最も大切なことは、次の一言に集約されると私は思います。


かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂


幕末の志士・吉田松陰


冒頭に挙げたキング牧師も、次のような言葉を遺しています。


I submit to you that if a man hasn’t discovered something that he will die for, he isn’t fit to live.


もし人が、そのもののために死ねる何かを見つけていないならば、生きるのにふさわしくないでしょう。


マーティン・ルーサー・キング・ジュニア


つまり、


死の恐れを上回る情熱を抱くことです。


この二人は、情熱に支えられた強烈な使命感を持ち、行動していきました。

日々漫然と生きている人にとって、ことのほか厳しい二人の言葉であり、実際に両名とも凶弾に倒れたように、危険な生き方なのかもしれません。

ただここまで過激ではなくとも、対象に対する熱い想いこそが、行動へ移すための最も大きな原動力となることは間違いないはずです。

その対象を見つけることこそが難しいとも言われますが、命を賭けられるものが見つかれば、行動への一歩を踏み出し、それを継続していくための力強い源泉となることでしょう。

そして、


千万人といえども吾往かん

せんまんにん といえども われゆかん


良心に恥じるところがなければ、千万人の敵に対しても恐れることなく向かっていこう。

(出典 小学館 デジタル大辞泉


孟子


これぐらいの強固な意志を持てれば、たとえ敗れたとしても、この両名のように後に続く人が出てくるはずです。

ということで、佐久間象山や吉田松陰をはじめとして、幕末の志士たちが行動原理とした、陽明学の知行合一とはを現代風に解説してみました。


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