2020/06/23

価値観が「モノからコトへ」変わったとしても、「モノそのものがコトへ移り変わる」事象を自動車産業から考察します



Canva - 提供者:Lisa Fotios 



最近よく聞く言葉に、「モノからコトへ」というものがあります。

この言葉を経済産業省では、「モノ」である物質的価値から、「コト」である情緒的価値へのシフトと定義しています。

「モノ消費」とは、所有を主な目的として物品を購入することであり、「コト消費」とは、体験や人間関係に価値を置く、レジャーやサービスへの消費のことです。

また、最近の若者は所有欲がないと言われているように、モノの所有に価値を見いだすのではなく、モノを通じた体験を重視するといった価値観も反映されているのでしょう。

このような事情から、かつては就職した若者が真っ先に購入を検討した自動車ですが、レンタルやシェアを選び、また車を単なる移動手段の一つとして考える傾向にあるようです。

しかし、典型的なモノと思われている車にしても、車でしか行くことのできない場所もあり、そこでの車窓からの眺めもあり、そこで感じる心の動きは当然コトです。

また、運転する車と自分が一体となる感覚もコトです。

そして何よりも、モノには愛着が湧き、コトへと移り変わっていきます。

使い込むことで自分に馴染み、また一緒に時を過ごした単なるモノ以上の価値がそこには発生するのです。

私事ですが、昨年、亡くなった父親の位牌を選んでいたとき、最終的に黒と茶のどちらにするべきかという話になりました。

そのとき母親は、茶色の方が良いと語り、その理由についてこう言いました。

「お父さんが乗っていた車の色みたいだから」


その車とは、私が小さい頃家にあったもので、もう40年近くも前のことですが、そこでその言葉が出てきたのです。

その車は、新婚当時に父親が乗っていたもので、母親にとっては思い入れがあったのだと思います。

車というモノが、40年の時を超えて、想いを運んできたのです。

また父親は、定年前にトヨタのクラウンを購入しましたが、これは「いつかはクラウン」というブランディングが影響していたのだと思いますし、またそこには、日本の技術力を結集した車に乗るという意味合いもあったと思います。


つまり、これはモノではなくコトであり、いま盛んに言われているコトの提供を、トヨタをはじめとした日本の製造業は昔から行っていたのです。

車には様々な部品が使われており、その一つ一つが創意工夫や努力の結晶であり、その集合体としての一台の車は単なるモノではなく、また自動車産業は巨大な市場規模であり、そこでは多くの人が働き、日本の経済を支えています。

製造業に関わっていた父は、そのような思いでクラウンに乗っていたのだと思います。

「モノより思い出」

こちらも車のCMで有名になった言葉であり、人はモノではなくコトに心が動かされるのは事実ですが、モノは単なるモノではなく、感情を伴ったコトとなり、またそれは時間を経るごとに積み重なっていくものだと思います。


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